naebono Talk 「アート・アドバイザー 塩原将志に訊く!!アーティスト、ギャラリー、コレクターのリアルな場」第4回
(第3回はこちら)
第4回 塩原、田口、山本、クロストーク 前編
塩原:
では事前に山本さんからもいくつかの質問を受けておりまして、
その質問についてひとつづつ答えていきますので、
ここから山本さんと一緒に進めていきたいと思います。
ちょっと、、、水飲んでいいですか(笑)
山本:
はい(笑)
ではその間に、、、
ここまででちょうど今日の予定の半分くらいですね、
塩原さんの高密度なレクチャーを聞いていただきました。
そして実は今日は、すでにトークの中でも何度か紹介をされておりました、
タグチ・アートコレクションの代表の田口美和さんにもおこしいただいております。
本日のトークのご提案も、田口さんからしていただきました。
ここからは、田口さんにも実際にご参加いただきたいと思います。どうぞこちらに。
(拍手、田口さん登壇)
山本:
今までの塩原さんのお話は、僕らにとって決して無関係な話じゃないんですね。
アートの世界に居る以上は、遠い話に聞こえたかもしれないけど、地続きで繋がっている話でもあるわけですので、
その辺も含めて、もうちょっと自分たちのスケールに寄せた話とかも、お二人に聞いていけたらいいなと思います。
それではよろしくお願いします。
田口:
よろしくおねがいします。
山本:
僕もアーティストなので、基本的にはアーティスト寄りな質問が多くなってくるとは思いますけど、
まずは作品のクオリティと好き嫌いの差は先ほどの話ででていましたね。
アーティストと直接コミュニケーションしていく機会もお二方ともにあると聞いております。
コミュニケーションの中で、ああこの人は作品だけではなくて人格まで優れているとか、
人格はメチャクチャだけど作品は優れているとか、コミュニケーション力はあるけど、作品力はイマイチとか、
いろんなパターンがあると思うんですね。
無口だったり作品について話したがらない作家の作品も購入したり、
アーティストとコミュニケーションすることで購入を決めることもありますか?
塩原:
いいですか、じゃあ先に僕の方で。
あくまでも僕にとってなんで、
あのアーティストが饒舌であろうが無口であろうが、、、これはアーティストと話す場合ですよ。
ギャラリストはまた別ですよ。売ろうとしてるから。
だけどアーティストの場合は、信じられる言葉や態度があることが一番大事ですね。
それって、多くを喋るとか、言葉が少ないとか、そういう問題じゃないんです。
だから、アーティストの方が本当のことを話しているかとか、信じられる言葉とか態度ってやっぱり、
人って感じるものがあるじゃないですか。それは大事にしています。
もう一つは、アーティストが話さなければ、評論家やギャラリストが話せばいいんですよね。
それがアーティストを紹介する人たちの仕事であって、ギャラリスト、評論家、キュレーターはその仕事をしている。
ってことはその人たちと、無口だからお付き合いできないんじゃなくて、
その人たちにちゃんと作品を見せて、その人たちに作品について書いてもらう、
語ってもらえるようなコミュニケーションを最低でもとらないとならない。
それはもう、がんばんなきゃいけないこと。
無口とか、引っ込み思案とかじゃなくて、その人たちに代弁させないと、とまず自分を受け入れてもらわなければ。
誰かがねえねえ教えて、と聞いてくれるもんじゃない。
プレゼンが上手い下手って話もあったんですけど、
ギャラリーの方ともいろいろなお話をして、勿論売り込まれることもあります。
ギャラリーに限らず、本気で誰かに伝えようと思ってる人って、ある程度熱意ってあるじゃないですか。
そこで見えることってあると思うんです。
プレゼンの内容なんて大して富んでなくても、その人がどんな目でどうやって話してるかって、
実は見る側って見てるんですね。そこが重要だと思います。
よく考えてみてください。プレゼンなんて方法ですよね。それって、下手なのは練習してないんですよ。
本気でみんなに伝えようと思ったら、
僕に対して話すのでも、話す内容は変えなくても、伝えるために言い方を変えないといけない時もあるんです。
それって練習で出来ることじゃないですか?
何かを伝えよう、自分が誰かに何を伝えようとを真剣に考えたことがあったのか!
っていうこと、それを伝えるために、練習をしたかってことなんです。
僕けっこう、実は無口なんですけど、それは嘘ですけど(笑)、
こうやってしゃべってきて、上手くなってきたところもあるんですね。伝えるのことも練習だから。
で、アーティストの方達で、プレゼンが下手だ苦手だって言ってる人たちは、
自分がなぜ作っているのか、っていうのに、好きだから、とか、小さい時にそうだったから、とか、、、で終わってしまう。
そのもう一歩向こうに、なんで好きになったのか、どういうところに自分が心打たれたのか、ってところまで考えて欲しい。
客観的に見られない、自分が自分がになって、私がこうだっていうのを、
知らない他人が見てるわけですから、客観的に伝えられられる力。
それから他の作品と相対的に比較する、美術史の中で同じような表現してる人たちがいるけど、
その人と同じようだねって言われるて、しゅんとなるのじゃなくて、
その人たちとの違いは自分でしかないわけだから、自分のことをきちっと伝えれば、似たような作品だねって言われても、
違いますよ、私はこうですって言える。
それが真似た、真似ないってつまらない話にしないで、私はこうだってことが言えれば、
見た目は似ててもそんなことは関係のない。
同じような年代とか、過去に遡っても同じような人たちとか、同じような考えの人たちがいるのは当たり前で、
その中で私はこうなんだという、
全体の中の個として私はこういう立ち位置にいますっていうのを、見つけてもらえるといいかなって、思っています。
山本:
田口さんはいかがですか?
田口:
私が何者かを説明する前にこんな話をするのも何なんですけど、
話が逸れないようにまずこの質問に答えますね。
「無口だったり作品についてあまり話したがらないアーティストの作品も購入しますか?」という質問について、
コレクター目線から正直な答えを言うと、
その作家(=アーティスト)さんがあまり作品について話したがらない人なのか無口なのかは、知らないで買っています。
まず、どこかに作品があって、その作品に興味を持った時には、説明は当然ギャラリーの人がしてくれるし、
他の方が代弁をしてくれています。
こっちももちろん、納得するまで情報を得ようと思って、聞きたいことはもちろん全部聞きます。
そういう情報をちゃんと得られた上で(購入の)判断はしています。
ただ、その作家さんが話したがらないとか、無口だとかはその判断には入らないですね。
だからちゃんと作品の情報や自分の伝えたいことが、買いたいと思った人に伝われば、きっといいのかなと思います。
それと、作家さんと会うことは大事とよく言われるんですけれども、
有名なコレクターさんでもね、作家にあんまり会いたがらない方はいます。
高橋コレクションの高橋先生もそんなに会わないとご自分では仰ってます。
会っているほうだと私は思いますよ。私なんかよりはよっぽど。
でも、いや、僕は作品だけで買っているから、っていう言い方をされています。
私も基本的には、大事なのは作品だと思っていて、その作品の背景を知るために会うし、
作家さんのお仕事の全体像を知るために会う。そういうことには、役に立つと思ってるんですね。
やっぱりね、何か持ってる作家さんって、すごい引き出しがいっぱいあるとか、何か、あるんですよ。
こちらが、ああ、この人に興味を持てそうな、何かっていうものを醸し出してくれる。
もちろん嫌な感じじゃなければ、私は最低限いいかなと思っているくらいなので、
無口であることとか、話たがらないっていうことが、販売にマイナスかっていうと、そうではないと私は思っています。
基本、伝わればいいと思っていて。
逆に、会ってみたらその人がいい人だったから買う、ということも絶対にないです。
やはり作品を気に入らないと、っていうか、いいなあって思わないと、買わない。
そういう作家さんと仲良くもなるし、繋がりも持つし、コミュニケーションもネットワークも持つし、
いろいろ人を紹介し合ったりしますけど、作品を買うっていうことはまた全く別で、
仲良くなったから買うかというと、それもないですね。
正直にコレクター目線で今の質問に答えると、そういう答えになるかなと思います。
山本:
ありがとうございます。
じゃあ今の話から具体的に、作品を購入さる際の、今度はギャラリーとの交渉のエピソードとか、
例えばこういう交渉をされたからこの作品がよく見えてきた、だとか、
逆にこういうギャラリーは印象良くないな、、、とか、(笑)
あとは良い作品があった、という時に、コレクターさんとアドバイザーさんがどういう意見を交し合って、
共闘して買う選択をしていくのか、
同じ作品を他のコレクターさんが狙ってるっていう場合もありますよね。
そういう、買うときとか交渉するときの具体的なケースみたいなことをちょっと教えていただければと。
田口:
うーん、、、例えば、今年のサスナルとかかな。
塩原:
そうですね、今年バーゼルのアートフェアで、サスナルっていう作家の作品を買ったんですけど、
その作品は何人か欲しいっていう方がいらっしゃって、それも3年くらい待ってましたね。
3年くらいずっと、売ってくださいと言い続けて。
出してきたけど気に入らないのもあって、パスした作品もあるんですけども、
まあ売れてる作家なので、田口さんでも3年かかりました。
その前の、オスカー・ムリリョの作品も3年ずっとギャラリーと交渉し続けて、やっとでした。
やはり最初は美術館に入るとか、プライベートコレクションのすごいところに入って行って、
良いアーティストだとわかっていたんですけど、なかなかこちらに回ってこなかった。
もうずっと同じで、今はまだ買えていない作家たちも、何人かいますね。シャバララとか。
そういった作家たち、ずっと買えてない作品は、根気良く出てくるまで待つ、
たとえ出てきても気に入ったものを買いたいのです。
っていうのは、ギャラリーが売りたいものを買ってるわけじゃなくて、
僕の仕事は、買いたいものを買うことなんです。
売りたいものを売られても、買わないですね。
僕らが買いたいものっていうのはハッキリ決めて、買う。
田口:
そうですね。ギャラリーの人は、どの作品だって良い作品だって当然言いますから、
そこは買う側が責任を持って判断しなければならないです。
その責任は、ギャラリーには押し付けられないことだから。
みんな良い作家さんで、良い作品だよって言われるんだけど、
自分の中では、んーでもこの前のほうが良かったかな、とかいろいろ思うわけで、
判断基準は大事にしています。
そうなると、例えば常々良い作家さんだなって思っていて、その作家さんの作品が欲しいなって思っても、
なかなか自分の欲しいタイプのものがない場合には、
じゃあ次の個展にでた作品で良いのがあったら教えてくださいって言って、半年待つとか、
それを繰り返して2年3年経つとか、、、っていうことは普通にありますね。
アドバイザーとの共闘という意味でいうと、
例えばこの作家さんについては1つは欲しいよね、という共通スタンスで「待つ」という選択もするし、
塩原さんはお話にあったように直接ギャラリーに行って直接会って、
いろいろ話してその作家さんが今どういうプロジェクトやってるかなど聞いた中で、
新作の情報をイチ早く掴んで持ってきてくださるので、
その情報を頂いた中でまた判断をするということを繰り返すってことかな。
共闘っていうとそういう感じですかね。主にはね。
塩原:
あとオークションでは予算が決まってますから、予算は無限じゃないんです。
予算の上に簡単に上に乗っけられたら(ビットされたら)すぐ負けちゃいますね。
勝つときもあるけれども。
ただギャラリーってずっと行き続けていると、前回はこの人に渡したから、
今回のこの作品はあなたに、みたいなことはあります。
先程触れた川村記念美術館にあるロスコの作品は、
あれは広本さんがその前にペースギャラリーに買いに行ったバーネット・ニューマンの作品を、
美術館だから(すでに購入意思をみせている)って、売らなかったんですね。
その代わり次に出てきたものを買わないかって、ギャラリーが出してきてくれたもので、
買うっていう意思を、欲しいっていう意思を出しておくことは大切です。
その上で待つと、ポロっと良い作品が出てくることもあんです。
買ったり負けたりというか、穫れるときと獲れないとき、
どちらかというと逃すことの方が多いですね。
田口:
そうですね、塩原さんがよくおっしゃることは、
買いたいという本気、シリアスだっていうことの意思をちゃんと伝えましょう、
ということですね。
欲しい作品があったら本気でまず買いに行って、交渉してみて、ライバルがいるのを知ってても交渉してみる。
それで、無理だったとしても、次に機会があったら是非って言っておくと、
ああこの人本当にこの作品が欲しいんだなっていうことを向こうに理解してもらえます。
そうなった時にギャラリーも少し情報を早く回してくれたりするので、
そういうルールをうまく活用するために共闘するっいう感じですね。
山本:
ありがとうございます。ヤバいギャラリーのエピソードとかはあります?
っていうのは、僕もいまギャラリー3つとお仕事してたりして、ギャラリーと議論になったりもしますし、
もっとギャラリーにこうして欲しいという要望もあれば、ギャラリーからの提案が有り難かったりもするし、
ウチのスタジオのメンバーもやっぱり、ギャラリーとそれぞれ仕事してる作家が何人かおります。
で、ケンカしている光景もたまに見たり(笑)
アーティストとして、何をギャラリーに訴えていくのかとか、それは止めたほうがいいよ、とか、
それはもっとやってよ!とか、色々あるんですよね。
田口:
アーティストがもっとギャラリーにこういうことを要求してもいいか悪いのかとかそういうこと?
山本:
例えばそういう判断をするために、アーティストではなくて、コレクターの目線からも、
ギャラリーにこういうことされたらもっと信頼があがるよなあとか、
こういうことされたら信頼が下がるよなあとか、、、
田口:
それは、アーティストと、ギャラリーの間の話?
山本:
ギャラリーと、コレクターの関係ですね。
そこを聞くと、僕らもまた違う視点からの参考にできるのかなと。
塩原:
それはない。それは立場が別だもの。
ただ、ヤバいギャラリーって、いっぱいありますから。
ハッキリ言うと。最初に付き合わないギャラリーを探すのも仕事で、
やっぱりさっき言ったように、信頼なんですよ。
美術品取引って、先にお金を送るんですよ。だけど作品が届かないことは時々あるし、
そこが潰れちゃったり、よくあることです。
それってもう、取引でお金を先に払ったほうが負けなのです。
一応、美術品商慣習として先にお金を払ってからじゃないと作品届かないですから、
ヤバいって、お金の話でしょ。買い手がお金を払ったのに作品が届かなかったり、
預けてた作品を勝手にどっかに売られてお金が入ってこなかったり、
っていうのは、よくあるし、僕もこういう風にやってるけど、痛い目には何回も遭っています。
最初から疑ってかかってます。申し訳ないですけど(笑)、
疑ってかかるっていうのは、最初からこういう条件を満たさなければ取引しないと、はっきり自分で決めていて、
その中で付き合うっていうことにしています。
田口:
お金のことだと例えば、割引をしてもらうときとかに、
アーティストとギャラリーがどういう風な取り分になっているのかな、
っていうのが気になるときはあります。
ただそれは、そちらの話なのでこっちはノータッチなんです。
こっちは介入できないし、逆に言うと私はあんまり三角関係にはならない。なりたくないんです。
なので、例えばあるギャラリーに所属しているアーティストさんがいて、
私はそのギャラリーとも付き合いがあって、アーティストももちろんよく知っている場合、
作品を買う交渉は、私はギャラリーとしか話をしません。
アーティストとは、あの作品がすごい好きとか良かったとか、そういう話はしますけど、
取引の話は絶対にしないです。間に入って、こっちが交渉を取り持ったりっておかしな話でしょ?
だからある意味、ギャラリーを信頼するしかないんですけどね。
逆に言うと、私は三角関係に割り込んでくるコレクターさんは良くないんじゃないかってむしろ思います。
アーティストとギャラリーの関係で困ることっていっぱいおありになるかと思うんですけど、
そこにコレクターは割って入れないと私は思っています。
ただ、いろんなギャラリーとおつきあいしていますから、
ギャラリーのクオリティを判断する目はあるはずなので、
ここのギャラリーはこういう傾向だよ、こういう雰囲気だよ、こういうやり方だだよ、っていうのはわかる。
作家さんから、自分のギャラリーからこんなことされたけど、他はどうなんですかって言われれば、
もっとこういうところもあるよとか、ってことは言えますけど、
具体的に何かのことに関して介入するってことは絶対にないです。
コレクターがこうおっしゃるのでこうだっていう三角関係で、
何かができることはあまり期待しないほうがいいかな、っていう気がします。
山本:
ありがとうございます。
これらの質問の動機っていうのは、今日は若い作家が多いというのもあり。
例えば札幌のギャラリーで展示するとなったら、
「私もできるだけその場所にいてお客さんと話したほうがいいのかな」、
と思いながらギャラリーに作家が滞在してたりするんですね。
でも今の話を聞くと、基本的にはお客さんと干渉するのはギャラリーっていう感じで、
あんまり作家が作品と一緒に前に出てこないっていう印象もあったので、
その辺のギャップも埋められたらいいなと思いまして。
田口:
作家さんがいて作品の話や、なんであなたがそれをやっているのかって知れることは、
コレクターとしては嬉しいんです。
そのほうが早く情報が届くし、ダイレクトに届くわけだから、
そういうことをしたい作家さんはいたほうがいいと思いますよ。
いたほうがいいのかっていうよりは、買いに来たコレクターに届けばいいので。
っていうことだと思います。
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山本:
ありがとうございます。では次の質問に。
タグチ・アートコレクションの具体的な年間予算っていうのは、けっこう明確に設定されているものなのでしょうか?
もしあるならば、年間いくらくらいで、実際毎年、何点くらい購入されているのか。
田口:
うん、これは難しい質問ですけど(笑)
山本:
言える範囲で結構ですので!
田口:
うちの場合はですね、どちらかというとすごくストリクトに年間の使うお金を管理している方だとは思います。
というのは、長く続けたいから。買い続けていきたいと思っているので。
一時期バーっと花火のようにたくさん買って、その後困ったら売っちゃってっていうことはしたくないです。
まあ他の羽振りの良いコレクターさんと比べれば遥かに少ない予算ですけども、
コツコツ毎年作品が買えるくらいの枠はなんとなく、ですね、決めてはいます。
で、だいたいですね、買う価格帯は様々なんですけども、
うちの場合は割とエマージングな若い方が多いので、
数万ドル、要するに10万ドル以下の作品もかなり買っています。
時々20万ドルくらいの作品を購入するっていうことはありますけど、
そういうのばっかり1年で何個も買うっていうことはうちの場合は当然無理ですね。
なので、その範囲で買えるっていう価格帯になります。
うちの場合は、「もうさようならの作家さん」っていう言い方があって。
うちのバジェットで手が出せる範囲がだいたいわかっているので、
例えば作品一枚でミリオンを超えてしまうと、ちょっともううちのコレクションでは追いかけられないと思っています。
そこに行く前の、せめて20万~30万ドルくらいの時にいい作品に出会いたいと思っているので。
だからこそ、若い人を見つけて探したいと思っています。
そういうカテゴリーのコレクターだと私は自身を認識しています。
額的には、ちょっと言えないんで(笑)
塩原:
たぶん、コレクションの展示見て、あとで同じアーティストのオークション履歴を見れば、
いくらくらいだったかわかっちゃうかも(笑)
田口:
(笑) でも本当に作品の額は様々なので、そのくらいのも買うし、
10数万(円)というのも買います。
塩原:
僕はもちろん言いません。お客様の情報なので。
田口:
だよね、言えないよね!
山本:
わかりました。ありがとうございます。
では、タグチ・アートコレクションの基準とか、コレクションの軸の作り方っていうのは、
今のお話や先ほど塩原さんがお話しされたことで、だいたい一致されているのですか?
塩原:
さっきの話だと、根本的なコレクションってどうしようかって話はしたと思います。
田口さんの場合は、お父様の時から20年近くお付き合いさせていただいているのですが、
初めから「みんなに見せたい」っていうのがあったんですね。
となると、みんなに見せられるところがどこかと言うと、やっぱり美術館しかないんですね。
そうするとミュージアムピースを買っていかなければならない。
展示を見ていただければわかると思いますが、
美術館に掛けた時に、その美術館の収蔵品と比べ遜色がないような、
それ以上の作品を集めましょう、と。
そうなると、その時のウォーホルとか、その前のアーティストの作品はもう高くて、
1億2億3億円になっていました。
そこで、若手、中堅のキャリアのアーティスト辺りのマスターピース、
もしこの作家が回顧展をやったら、
必ず出してくると思える作品を集めていこう、と最初に決めました。
その何年後かに、お約束通りに美術館でのコレクション展を実現しました。
ですから、田口さんのご自宅も大きいんですけど、それでもご自宅には入らなくて、
田口さんは時々「ウチには全然作品が入ってこないね。」と仰るのですが、
そこはもう、美術館で見せるためなので我慢してください、と言ってたこともあります(笑)
田口:
基準っていうのは、先ほども言ったように完全にエスタブリッシュしちゃった1枚で2億3億みたいな人じゃなく、
まだエマージングな、どちらかといえば若手と言われるような作家さんの作品を熱心に探している方だと思っていまして。
あとは、父がまず最初に会社でコレクションを始めていて、その時はアメリカンポップアートが中心だったんです。
その後、2000年くらいから個人で集めるようになっていって、
持っている作品が一番古いものでもウォーホル、とかなんですよ。
なので、うちの場合は、例えば「具体」とか、そういうのはどれだけ人気があっても作品として好きであっても、
持っていないんですね。
そういう作品は好きですけど、コレクションの対象外だとは思っています。
そういう線引きもやっぱりしています。
なんでも買っちゃっていると、カテゴリーが広くなりすぎるので。もう本当に新しい、、、
塩原:
主に1980年以降ですよね。
田口:
古くてそれくらいで、買っているのは今の人たちです。
ただ、田名網敬一さんだけはちょっと別でしたね。
田名網さんは1970年前後くらいのコラージュを買いましたけど、
田名網さんはファインアートの世界で評価されるのが遅くて、
ずっとTVでアーティスティックディレクターとしてやられていて、
作品を、ずーっとご自宅に仕舞い込んでいらして、
ご自分のオリジナルのコラージュを出されたのがここ数年なんですよね。
そういう意味では、最近デビューした人とイメージ的には私の中では一緒で。
なので田名網さんの作品はかなりコレクションの中にも入れました。
山本:
ありがとうございます。
(第5回に続く)
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