naebono Talk 「アート・アドバイザー 塩原将志に訊く!!アーティスト、ギャラリー、コレクターのリアルな場」第5回
(第4回はこちら)
第5回 塩原、田口、山本、クロストーク 後編
山本:
じゃあどんどん次に、、、
(塩原さんと田口さんの)意見の食い違いが起こることはありますか?
田口:
塩原さんはプロのアート・アドバイザーなので、私以外にもお客さんはいっぱい、いらっしゃいます。
で、それぞれのお客さんの方向性とか好みとか、バジェットとかも当然把握されているので、
その人に合ったものをちゃんと提案してくれたり情報を提供してくれたりしています。
というのがまず前提としてあるので、基本的に全然こっちの範疇外っていうオファーは仰ってはこないんですね。
意見の食い違いっていうのはあるかなあ、、、?
塩原:
そういうのは、ないですね。
ただ最後はこの図柄がいいとか、こちらの方がいいを決めるのはコレクターです。
この作家はいいなって思うのは同じで、こっちがいいか、あっちがいいかっていうのも、
やっぱりこっちよりも、もう一つの方がいいっていうのも、たぶん似ています。
田口:
ああ、さっき好き嫌いの話が出た時に私も言いたかったのは、私も好き嫌いで当然ものを買っています。
ただ、好き嫌いで判断するのは最後の最後です。
この作家さんの作品が欲しいねって思う時に、なぜ欲しいかというところに関しては、
さっき塩原さんが言われたような裏付けも含めて、
この作家をコレクションに入れようということはすごくロジカルに考えます。
ただ、同じようなクオリティで同じような大きさで、そういう種類の作品が並んでいたら、
そこから先は好き嫌いです。
なので、一番最後は好き嫌いで決めているって感じですかね。
そこに至るまでのあいだの意見の食い違いっていうのはそんなに無いですよね。
それはたぶん塩原さんは他のお客さんとやっている時もそうだと思いますし、
ちゃんと、お客さんに合わせた提案をするというプロとしての仕事を、
塩原さんがして下さっているということだと思います。
塩原:
(小声で)パス下手ですけどね。 (会場のホッケーの仲間に向かって)
田口:
え?
塩原:
(小声で)パス下手ですけどね!(ホッケーのパスです。)
山本:
あはは(笑)、どんどんいきましょう。
ギャラリーのほうから、塩原さん、あるいは田口さんにも、
ガンガン、この作家良いんで、ぜひオススメです!みたいな、営業っていう風に言えばいいのかな、
そういうのをかけてくることはあるんでしょうか?
塩原:
その質問があったので、持ってきました。
これ皆さんにも回していただいて。これはガゴシアンが毎月、僕のところへ送ってくれる冊子です。
こちらがデヴィッド・ツヴィルナーっていう画廊が、バーゼルのアートフェア5日間のためだけに作ったカタログです。
これはハウザー&ワースが、これも今年のバーゼルのためのもの。
これをギャラリーは、アートフェアが始まる前に、僕のところへ送ってきます。
こちらが、ガゴシアンがシーズン毎に出しているもの。
これらはまあメガギャラリーなので、ファッションブランドが広告出していたりとか、そういった部分もあるんですけども。
営業は当然、かけられます。
アート・ディーラーっていうか、アドバイザーが売り込みされなかったら、存在価値は無いですね。
僕らは売り込まれて、それを判断するのが僕らの仕事なので、もう当然画廊は、どんどんどんどん。
今度マイアミのアートフェアがあるんですけども、
実はプレビューは、もうとっくに手に入っています。
僕らはアートフェアに、気になった作品を確認しにいくんですね。見つけに行くんじゃなくて。
各画廊、80社くらいは、こういうのを出しますっていうプレビューは来ています。
だからギャラリーっていうのは営業をするところで、
ギャラリーが営業しなかったらアーティストがしなきゃいけなくなってしまうんです。
ただ、えげつなくやるんじゃなくて、こうやってスマートにやるって方法も、これがスマートかどうかわからないですけれど、
ギャラリーは情報をきちっと顧客と共有するという作業を、必ずしなければならないといけないなと思っております。
田口:
ギャラリーの営業は、ありますよね。
私の場合は塩原さんというアドバイザーを通して買っていることがかなり多いので、
塩原さんのところに情報が来ることも多いですけど、直接私も挨拶して名刺を交換すれば、
こういう作家の個展を今度やりますとか、メールが必ず来ます。
アートフェアの前には、お誘いのメールも来るとか、それって普通にあります。
すごい忙しい時期だと思いますけどね、ちゃんとそういうことを送ってくるところはかなりあって。
それらは見てはいますけれど、いちいちリプライも当然できないので、見ることは見ています。
その中で気になるのがあると、「塩原さん、どこそこギャラリーからの情報来たけど見ました?」みたいな話はします。
で、ちょっと話をして興味があればフェア当日そこのブースに行ってみてみようかってなるわけで。
情報が来なきゃ、その話はしないですね。送っていただいた方がこっちとしても選択肢も増えるし、
いいんじゃないかなとは思います。
あとは、別の意味、その、押し売りじゃ無いけど、、、
山本:
そう、過剰なくらいのアプローチとですとか。
あと逆に、全然無名で若手を扱ってるけど、このギャラリーの営業は上手だな、みたいな、、、
田口:
ああ。そうですねえ、、、
塩原:
僕いいですか。たぶん若いアーティストの作品って、その作品パッと一個見ただけで買うことはあまり無いです。
フェアの後に個展行くとか、他の作品の資料とか他に販売可能なあるものを出してくださいってギャラリーに聞きますね。
その場で若い作家の作品、一つだけ勧められてどうか? なかなか判断できない。
それが本当に僕らが気に入るものなのかも、、、
ギャラリーっていうのは選ぶ人(買う人)に必要な情報と十分な選択肢を出すのも仕事なので。
納得できる情報と、条件に適う作品を出してくれれば、買うこともあります。
田口:
うん。それもあるんですけど、あともうひとつ。今ちょっと思い出しました。
えーとね、上手いなあっていうんじゃなくて、ありがたいなあと思うのは、
例えば、もちろんギャラリーって、どの作家さんだって超オススメなわけですよ。
ぜひ、展覧会に来てくださいとか、どこどこの美術館で今個展やっているからぜひきてくださいとか、
この日に何人かで行きますけど一緒に行きませんか、とか、
そういうお誘いを熱心にかけてきてくださる(ところがある)んですね。
私はそれをすごくありがたいと思っています。ていうのは、買わなくてもお誘いし続けてくれるギャラリーがあって、
そういうところはとても良いギャラリーだなと私は思っています。
それは塩原さんの今言っていたこととも通じていて、若い作家さん1個の作品見ただけでは買えないんですよ。
だから、その作家さんの展覧会を何度もその人に見せるっていうことは、
作家さんの理解を進めるには一番良い方法なんです。
買ってくれなくったって何回もお誘いして、見せるためのツアーに一緒に行くとか、
車出して一緒に何人かで行きましょうとか、そういうのを熱心に誘ってくれることを私はとてもアリだと思っています。
買わなくてもそれをし続けてくださるっていうところが、何箇所かやっぱりあります。
それは大事なことだと思います。参加することで作家さんのことも知ってくるし、
面白い作家さんだなと思えるようになってくるので、
そういうアプローチをしてくださればいいんじゃないかなと思っています。
山本:
ありがとうございます。
先ほども触れましたけども、若いアーティストが今日観客の6,7割くらい、若いギャラリストもおりますので、
もし知名度も大きな展覧会歴もないような若手の作品を買う場合って、まずそういうことはあるかということと、
ある場合、どんなところにピンとくるか。
若手なので、将来アーティストをやめちゃうっていう可能性もあるじゃないですか。
そういうリスクも考慮して買われたりするんでしょうか?
塩原:
僕の方からでいいですか。
ディーラーは、仕入れとして買うならば、もちろん再販売しなければ生計は立たないのです。
しかし、今ギャラリーで売っている作品の99.9パーセントの作品は、販売価格を保持できないのですね。
だから逆に言うと、その1パーセントを探しに行くために僕らは海外まで行ったり、いろいろやります。
どんな商品であれ、売ったものがそのまま二次販売で等価で売れるってことはまず無いのですね。
アーティストが50パーセント取ってギャラリーが50パーセント取ったら、
このギャラリーの50%は運営費に利益が乗っかっている金額なわけですよね。
純粋に作品価格は50%ってことです。
ですから、基本的には作品価格が上がっていくっていうのは、
本当にごく限られた一部のアーティストでしかないのです。
となると、もう最初から、ある程度覚悟は決めています。
私の場合は、仕入れで買うのだったら別として、個人で買うのであれば、
もう好きか嫌いか、これいいだろうと思ったら買います。
ただ、それに使える金額は100万以下です。
それ以上のものになったら、どんなもの(製品)でもそうなのですけど、
僕の範囲だったら100万以下じゃないと、もうどうでもいいやと思って使えるお金じゃないのです。
100万以下のもので、気に入ったと思えば、買います。
若かろうが若くなかろうが、それは財布の問題で、個人によって変わってくるかと思います。
損(払った金額が戻らない)をする覚悟はあります。
田口:
本当に無名の若い作家を買うときは、単純にこの作家さん面白いなあと思って買うっていうことであって、
さっきから話している、ロジカルに市場性を調べたりとか、そういうのとはちょっと切り離した感覚ですね。
でも、そういう作品を見て面白いって思えることって、私は大事だと思っているので、
琴線に触れるとか、面白いなって思うことに関しては、将来の保証とかはそこまで考えなくても、
今のその作品を評価して買う、ということはありますね。
ただ、先ほども触れたように、基本的には作家さんの仕事全体として今後も評価していきたいと考えているので、
続けていってもらいたいなとは思うし、続かないリスクも当然認識しながらやってますけどね。
金額は、塩原さんのおっしゃる通り、そんなに高額なものは出せないので。
よく、高いものになるとなかなかコレクターさんが買ってくれないって言うけどそれは当然で、
今の話に繋がってくるんですよね。
自分のお小遣いで買って、それが将来作家さん辞めちゃうとか、そういうことがあってもいいって思える範囲と、
やっぱり、300万400万、500万かけて払ったんだったら、
多少なりとも再販ができて少しはまた手放した時に少しでも戻ってきてほしいって思うじゃないですか、資産として考えれば。そうなると慎重になるし、選択の幅が狭まりますよね。そこにラインがあると思うんですよね。
高くなると買わなくなるっていうのはそういうこと。
高くなると買わなくなるもうひとつの理由は、高くなると、選択肢がすごく増えます。
例えば500万円だすんだったら、
海外に行ってそこそこのブルーチップの作家さんの中堅くらいの作品が買えたりもするわけなんですよ、運が良ければ。
そうなると、ライバルが途端に拡がるんですよね。
15万円でこの面白さだったら、買いだなって思うのと、500万でも欲しいというのはまったく違う話なんです。
結局、高く作品を売るということは、コレクター側が見てるライバルも増えるということなので、
そうすると買われる確率は当然減りますよね。
ということだと理解していただけるといいかな、というふうに思っています。
山本:
うーん、面白いですね!良い話だなあ。
質問もまだいろいろ用意はしてきたんですけれど、
だいぶ時間も押してきてます。後で質疑応答の時間も取りますので、
僕が聞きそびれた切実な質問は皆さんから受けることにしましょう。
今の話から続けてもうひとつだけ、
田口さん塩原さんお二人が今年の2月にたまたま芸術の森の展示の打ち合わせで札幌にいらしていた時に、
面白いアートスポットを探されていて、ありがたいことに某学芸員さんの情報により、
ここにもいらっしゃってくれたんですね。
で、各部屋を回られて、僕らも本当にびっくりしたんですけれど、naebonoメンバーの1人で、
今日あちらにもいらっしゃる、高橋喜代史さんというアーティストの作品を非常に気に入っていただけて、
なんとそのままご購入していただいたという経緯があったんですね。
夢がある話でしょ!?札幌のみなさんにとっては!
(会場笑)
買うってお二人で相談して決められた経緯ですとか、
具体的なエピソードっていうのを聞いてみたいなと。
スライド34
※ 購入された作品
(「助けて!」と英語、日本語、アラビア語の3ヶ国語で書かれたポスターを、
作家本人が街の中で懸命に貼っている映像作品。風で何度も剥がれてしまう。
通行人のほとんどが無関心の中、1人だけ作業を手伝ってくれる。)
田口:
じゃあ入り口は私が話しますね。
ここ(なえぼの)に来させていただいて、山本くんが対応してくれたのですが、
山本くんは元からね、塩原さんとはつながりがありましたね。
山本:
そうですね、以前に一度お会いしていました。
田口:
私はその時初めて会ったんですけど、色々作家さんのお部屋もご案内してくださって。
ある部屋に行った時に、
「塩原さんたちが来るって聞いて、モニタと映像の電源を入れといてくれって頼まれたんです」
って山本くんが言ったんですね。
高橋さんはお部屋にいらっしゃらなかったんですけど、そこで初めてこの作品を拝見しました。
時間も13分くらいの作品でそんなに長くなかったのでその場で見れて、
ちょっとこれ、面白いねっていう話になって。2人で意気投合して。
塩原:
はい。そうですね。
田口:
その判断を、じゃあお話しください。
塩原:
面白かったのはですね、このHELP!っていうのが、見えなかったことなんですね、最初に。
HELP! って書かれたポスターを貼りたいのに、何が書かれているかわからないまま一生懸命これを貼ってるんですね。
開いた時に初めて、HELP!助けて!っていうことがわかる。
僕ちょっとその時考えたのは、本当に助けてもらいたい人の声っていうのは、人に届いてなくて。
世の中ってそういうもんなんじゃないかなっていうのを考えさせてくれた作品でした。
いろんな場面で、例えば難民の人とかも。
田口:
他の言語(アラビア語)でも書いてあるんですよ。
塩原:
そう、これってインターナショナルですよね。
どこにいってもみんなが考えること、普遍的なことだし、どこでも展開できる。
グランドデザインの大きさっていうのを感じたんですね。それで、これは面白いかもしれないと。
尚且つ、最後1人助けに来て。社会と個人の関わりであって、
最後にその人が気付いてくれないと貼れなかったかもしれないけど、
誰かが来たことによってみんなが文字を見られるようになる。
でも他の人たちは無関心で。
田口:
無関心に前を通り過ぎてくんですよね。
塩原:
社会の無関心っていうことを如実に。
それで二つのことをはっきりとやってますね。っていうことだったのですね。
これだったら、字が読めなかったとしても、外国の人たちが見たとしても、
どんな事が起きているかわかるし、人間ってどういうものかっていうのが気づかせてくれるんじゃないでしょうか。
そんな話をして。じゃあ、いっときましょうか!!って言ってね。
田口:
今塩原さんの説明を聞いてても面白かったなっていうのははっきり思い出します。
すごいざわざわするんですよ、見ていて。シンプルで、しかも普遍性があって、
どこの国でもできるし、誰でも本当はできるし、そういう展開も可能だと思ったし。
プラカードを掲げてるバージョンもあったんですけど、私はこっちのほうがそういう意味では好きで、
こちらの方を選ばせていただきました。
で、せっかくなので、このポスターもいただけないでしょうかと、
CAI02の端さんをご紹介していただいて、交渉させていただきました。
山本:
高橋くんが所属しているギャラリーのディレクターですね。
田口:
はい。端さんにちゃんとお願いして、交渉して、
この映像作品の中で使っているこのポスターもあるんですか?っていう相談もさせていただいて、
つい何ヶ月か前に、超ぶっとい絨毯みたいなのが届きました(笑)
(会場 笑)
田口:
10メートルあるのかな、これ。
塩原:
最初うちの会社に届いたんですよ(笑)
田口:
そうそう最初塩原さんのオフィスに届いて、なんだこれは!みたいな。今はうちの倉庫に入っています。
どこかでまたこれを出せたらいいなと思っています。
塩原:
ポスターも一緒に買わなきゃいけないと思ったのは、やっぱり美術館っていうかみんなに見ていただく際に、
映像だとこの紙を貼る作業が、どんだけ大変だったか伝わりにくい、モノがあって初めて感じるところがあると思うんで、
これを1人が貼るとなると大変だっていうことも見てもらえる。
だからインスタレーションとして一緒に並べた方が、見る方たちも作品の理解が高まるんじゃないかと。
前提として、見てもらう人のために、あの旗ですか、あれも買っておこうと考えました。
田口:
そうですね、パブリックな場所で見せるかもしれないから。
塩原:
素晴らしい作品でした、ありがとうございました。(会場の作家本人に向かって)
田口:
ありがとうございました。
(第6回に続く)
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